自社の SaaS を公開すると、早い段階で「登録した人のうち、実際に使い始めた人はどれくらいか」を知りたくなります。この「使い始めた」状態を表す指標がアクティベーションです。
ところが、アクティベーションの解説記事は一般論にとどまり、自社のプロダクトで何をアクティベーションと呼ぶのかは、自分たちで決める必要があります。この記事では、公開前に事業責任者が決めておくことを、定義、チームで使うプロダクトの数え方、計測イベントの絞り方の順に整理します。
アクティベーションは「登録」ではなく「価値を感じる行動」
SaaS 決済サービス会社 PayPro Global の解説(SaaS アクティベーション率)は、アクティベーションのステップを、アカウントを持つことやログインすることとは分けて説明しています。ユーザーがプロダクトの有用性に気づく瞬間(同記事の言う「アハ体験」)に対応する行動を、実際に取ったかどうかで見る考え方です。
同じ記事は、定義を決めるときの判断材料として、プロダクトの複雑さ、既存データの移行の有無、契約価値の 3 点を挙げています。また、継続利用を最もよく予測する主要イベントを 1 つ中心に置くことを勧めています。
ここから、定義に必要な要素は次の 3 つだと整理できます。
- 行動:何をしたら「使い始めた」とするか(例:請求書を 1 通発行した、最初の案件を登録した)
- 期限:サインアップからどれだけの期間内か(同記事は、初回セッション内か最大 48 時間以内を例にしています)
- 分母:誰を数えるか(新規サインアップ全体か、テストアカウントを除いた人か)
PayPro Global の記事は、テストアカウントを除くことや、獲得経路ごとに基準を分けることも注意点として挙げています。公開直後は件数が少ないため、社内のテストアカウントが混ざるだけで数字が大きくずれます。最初の設計で除外の方法を決めておくと、後から数字が使えなくなる事態を避けられます。
良い定義は「後の継続や課金」とつながっている
B2B SaaS 向けのオンボーディングツール Chameleon のブログ(Improve activation rates in B2B SaaS)は、アクティベーションを、一定期間内に特定の行動をそろえて行うことというマイルストーンとして定義し、新規サインアップのうちどれだけがそこに届くかを追う、という進め方を示しています。そのうえで、定義が広すぎると意味をなさず、狭すぎると価値に至る別の道筋を取りこぼす、と説明しています。さらに、定義が長期の継続や売上を予測できないなら、その改善に力を注いでも無駄になる、とも述べています。
これを自社で使うときの確認は、次のように単純にできます。
- 公開後しばらくしたら、「定義の行動を取った人」と「取らなかった人」の翌月の利用や契約を並べる
- 差がなければ、定義の行動が価値と結びついていないので、別の行動に置き換える
最初の定義は仮説です。最初から正解を当てにいくより、後で見直す前提で、見直しの時期(たとえば公開後 2〜3 か月)を決めておくほうが現実的だと私たちは考えます。見直しのときに迷いやすいのは、行動が「簡単すぎる」場合です。誰でも取る行動を定義にすると、割合は高く出ますが、継続や契約との差は出ません。逆に、取った人が数人しかいない行動は、件数が少なすぎて比べられません。両方の中間で、「価値を感じたと言える最初の行動」を選ぶのが現実的です。
複数人で使うプロダクトの数え方
業務アプリや B2B の SaaS では、1 人が登録しただけでは価値が出ないことが少なくありません。Chameleon のブログは、オンボーディングの手順として、チームメンバーの招待、外部サービスとの連携、権限の設定のような、複数人や複数回にまたがるものを挙げています。また、招待されて来たか自分で登録したかが、アクティベーションの率に影響すると述べています。これらの手順を分析でどう扱うかは、招待経由と自己登録を分けて見ておくと、数字の読み違いを減らせます。
ここで決めることは 2 つです。
- 数える単位:個人(ユーザー)で数えるか、組織(アカウント、ワークスペース)で数えるか。複数人で使うプロダクトは、組織を単位にしたほうが「このお客様は使い始めたか」に答えやすくなります
- 招待を行動に入れるか:チーム招待を「使い始めた」の条件にするか、別の中間指標にするか
単独でも価値が出るプロダクトは個人の行動を定義にして、招待は別の指標として見ます。反対に、他の人がいないと価値が出ないプロダクト(承認フローや共有カレンダーなど)は、組織単位で「2 人以上が最初の業務を完了した」のように定義します。
計測イベントは「定義を数えるため」の最小限から始める
マーケティング分析サービス Databox のブログ(SaaS のマーケティング指標)は、アクティベーション段階で追う候補として、アカウント作成、オンボーディングの完了、初回ログイン、初めての機能利用、アプリ内の滞在時間、セッション数を、ある実務家の意見として紹介しています。ただし、このうちどれを主要なアクティベーション指標にするかまでは示していません。つまり、イベントを増やせば答えが出るわけではなく、先に定義を決めて、それを数えるイベントを選ぶ順番になります。
最小限の構成は、次の 4 種類です。
| イベント | 目的 |
|---|---|
| サインアップ(アカウント作成) | 分母を数える |
| アクティベーションの行動(定義で決めた 1 つ) | 分子を数える |
| チーム招待の送信と受諾 | 複数人で使うプロダクトの広がりを見る |
| 継続の目印になる行動(例:翌週の再利用) | 定義が正しいかを後で検証する |
それぞれのイベントには、誰が(ユーザー ID とアカウント ID)、いつ、どの経路で来たか、を付けておきます。これを付けずに始めると、後から「招待経由の人だけ見たい」と思っても分けられません。
サインアップが少ない段階での判断
Chameleon のブログは、週のサインアップが数百件に届かないうちは、統計的に有意になるまでに A/B テストで数か月かかることがある、という趣旨の目安を示しています。同ブログは、多くの B2B 製品は流入が少ないとも述べています。公開直後の SaaS の多くは、この水準に届かないでしょう。
件数が少ない段階では、割合の細かい上下を追うより、次のような見方が向いています。
- 使い始めなかった人を数人だけでも選び、どこで止まったかを画面操作の記録や聞き取りで確認する
- 割合ではなく件数で、毎週同じ表に記録する
- 数値のベンチマークは、定義や対象が違うため、そのまま当てはめない。PayPro Global の記事自体も、本文中の数値の多くは出典を示していません
公開前に決めておくこと
- アクティベーションの行動、期限、分母(テストアカウントの除外方法を含む)
- 数える単位(個人か組織か)と、チーム招待の扱い
- 最小限の計測イベントと、各イベントに付ける情報
- 定義を見直す時期と、その判断の材料
まとめ
- アクティベーションはサインアップではなく、価値を感じる行動で定義する
- 定義は仮説として置き、後の継続や課金とつながっているかで見直す
- 複数人で使うプロダクトは、数える単位と招待の扱いを先に決める
- 計測イベントは定義を数えるための最小限から始め、サインアップが少ないうちは件数と観察で判断する
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